経験とAIを融合し、店舗開発の意思決定を進化させる
− ベルクがSENSY GeoScopeで挑む、店舗開発DX
Sep 7, 2026
株式会社ベルクは、2020年にデジタル推進室を立ち上げ、「2030年にデジタル活用ナンバーワンの小売業になる」という目標のもと、需要予測・発注最適化をはじめとしたAI活用を進めてきた。SENSYとの取り組みは、需要予測から始まり、現在は店舗開発領域へと広がっている。その中核となるのが、出店候補地の売上予測や商圏分析を支援する「SENSY GeoScope」だ。2023年頃から研究プロジェクトとして始まった取り組みは、2024年〜2025年のトライアル運用を経て、第一号顧客としての実運用へ進展。今回は、デジタル推進室 室長の高橋氏と、店舗開発部 課長の作田氏に、導入の背景、共同開発のプロセス、そしてAIが店舗開発にもたらす変化について聞いた。

#Section01
2030年「デジタル活用ナンバーワン」へ。需要予測から始まったAI活用
ベルクのデジタル推進室は、現社長の就任と同時期にあたる2020年5月に発足した。高橋氏に与えられたミッションは明快だった。「2030年にデジタル活用ナンバーワンの小売業になる」。とはいえ、発足当初は人数も少なく、具体的な道筋がすべて見えていたわけではない。高橋氏は「目の前の課題を一つひとつ解決しながら進んでいくことが精一杯だった」と振り返る。
❞ 当時の需要予測は、過去の延長で数字を作る統計学ベースのものが中心でした。小売において将来の活用を広げていくには、人の行動に着目したAIに可能性があると感じました。
— 髙橋氏
SENSYとの取り組みは、まず需要予測・発注最適化から始まった。発注業務をAIで高度化することで、店舗や商品に関するデータを蓄積し、より大きなテーマへ展開していく。その先に高橋氏が見据えていたのが、店舗開発・出店分析だった。
「データを使える部署に来たからこそ、会社の重要な経営戦略である出店にAIを活用という思いがありました。」高橋氏はそう語る。
店舗開発は、食品スーパーにとって将来の成長を左右する重要な意思決定である。一方で、従来の出店予測には外部の専門家や担当者の経験に依存する部分も大きく、継続性や再現性の面で課題があった。

#Section02
店舗開発のプロが感じていた「属人化」の課題
作田氏は、前職のファミリーマートで店舗開発を11年経験し、約60店舗の開発に携わった。コンビニの店舗開発では、限られた敷地条件の中で、人流、駐車場、道路からの入りやすさ、売場配置などを細かく見極める。たとえば道路から駐車場へ入る角度や、車が切り返せるスペースまで検討するという。
作田氏がベルクに入社を決めた背景には、現社長が掲げる「出店は数ではなく質を重視する」という考え方への共感があった。前職では多くの新規出店を手がける一方、スピードや件数を求められる中で、物件を深く吟味しきれない難しさも感じていたという。
入社前、当時専務だった現社長から「ベルクは数にはこだわらない。質重視でいく。」と聞き、自分が本当に取り組みたかった店舗開発ができる会社だと感じた。
ベルクに入社してからは、スーパーマーケットならではの店舗開発の違いに向き合った。コンビニや飲食店は、既にある人流に乗せる立地判断が中心になりやすい。一方、スーパーマーケット、とくにベルクのような業態では、十分な駐車場や売場、標準化された店舗フォーマットによって、人の流れそのものを変えられる可能性がある。
❞ 店舗開発で一番の課題は属人化でした。売上予測も資料づくりも、人の経験や勘に依存しやすい。なぜこの数字になるのかを掘り下げると、説明に詰まることもありました。
— 作田氏
既存のGISツールを様々検討したが、いずれにも課題があった。機能が多く重たい一方で、ベルクの実務に合わせたアレンジが難しく、費用感も高い。作田氏は「宝の持ち腐れになるのではないか」という懸念を持っていたという。
一方でSENSY GeoScopeは、POSデータなど社内に蓄積された実績データを活用し、ベルクの店舗特性に合わせて予測モデルやレポートを一緒に作り込める点に可能性を感じたという。作田氏は「GISソフト系だと、POSレジを活用するような発想はあまりない」と振り返る。データは万能ではない。店舗開発の実務で何を判断するために、どのデータを選択するのかが重要になる。

#Section03
「まだないもの」を一緒につくる。 SENSY GeoScope共同開発の始まり
SENSY GeoScopeの取り組みは、2023年頃、正式な製品導入からではなく、研究プロジェクトとして始まった。高橋氏は「最初は組織全体で動くというより、面白いと言ってくれる人を巻き込みながら進めた」と話す。定期的なミーティングを通じて、出店分析のデータを試し、可能性をディスカッションする。そうした小さな検証の積み重ねが、SENSY GeoScopeの原型につながっていった。
作田氏にとって、完成済みのパッケージではなく、これから一緒につくるという進め方には不安もあった。それでも、出来合いのGISツールよりも自由度が高く、店舗開発の現場で必要な資料や説明に合わせて改善できる点に可能性を感じたという。
❞ 不安は正直ありました。ただ、パッケージを使うより自由度がある。こういう裏付けや資料
があれば経営に説明しやすい、という現場の要望を反映してもらえる点が大きかったです。
— 作田氏
AIモデルの改善は、実際の候補地や既存店のデータを見ながら進めた。最初は誤差率が20%弱の水準だったが、モデルやデータを見直しながら改善を重ね、現在は中央値で7%台まで精度が向上している。とくに駅周辺の店舗では、鉄道・駅周辺の人流データを加えることで精度改善が見られた。
一方で、郊外の店舗ではまだ精度が低いケースも残っている。作田氏は、競合店の駐車場、売場面積、出店パターンなどのローデータを組み込むことで、郊外型店舗の予測精度をさらに高められるのではないかと期待する。AIは一度つくって終わりではなく、現場の違和感を起点に、改善を続けるものだ。
#Section04
第一号顧客として実運用へ。初期判断のスピードが変わった
2024年秋からトライアル運用が始まり、ベルクはSENSY GeoScopeの第一号顧客として実運用に進んだ。現在、作田氏が大きな価値として挙げるのが、候補地の初期判断のしやすさだ。
❞ 一次判断は圧倒的にやりやすくなりました。
まず候補地をSENSY GeoScopeの予測に掛けてみて、「なるほどね」と確認できる。最終的には現地
を何度も見て判断しますが、初期段階で答えが早いツールが増えたことは大きいです。
— 作田氏
従来、外部の調査会社に依頼すれば、結果が出るまでに数週間かかることもあった。SENSY GeoScopeでは、地図上で候補地を指定し、AIが売上予測や商圏分析のレポートを生成することで、初期検討のスピードを大きく高める。もちろん、AIの数字だけで出店を決めるわけではない。現地調査、担当者の経験、外部コンサルティングの見立てと組み合わせながら、判断材料の一つとして活用する。
デジタル推進室の高橋氏も、店舗開発部でSENSY GeoScopeが活用されている状況を前向きに評価する。「経営の中でもここに期待してもらえている」と語る。また、生成AIの普及によって、AIへの理解や受容度が高まったことも追い風になったと見る。
さらに、SENSY GeoScopeで得られるデータは、店舗開発だけに閉じない。高橋氏は、既存店のパフォーマンス分析への展開を期待する。AIが見たときに「この店はもっと売れるはずだ」と示せれば、カテゴリーのテコ入れや競合対策のヒントになる。AIが答えを出すというより、人では気づきにくい切り口を与える存在になる。

#Section05
AIレポートで、経営判断に使える情報へ
直近では、SENSY GeoScopeのAIレポート刷新とシナリオシミュレーション機能の開発が進んでいる。作田氏が重視したのは、AIの予測結果を、経営が判断できる情報として整理することだった。
作田氏は、公式の開発会議でSENSY GeoScopeの資料を活用したところ、経営陣にもスムーズに受け入れられたと話す。一方で、「なぜこの数字なのか」「根拠データは」といった質問に対し、従来のAIレポートだけでは説明しきれない場面もあった。
❞ 開発が取締役会に上げる資料は30ページほどになることもあります。でも、本当に必要な情報はもっと絞れるはずです。なぜこの場所なのかを1枚で示せるレポートに近づけたいと思いました。
— 作田氏
高橋氏は、数字の目的は「経営陣が正しい判断をするための情報提供」だと言い切る。使いきれない情報が多すぎれば、かえってノイズになる。だからこそ、SENSY GeoScopeのAIレポートでは、売上予測だけでなく、その背景となる商圏、競合、立地特性を、経営層が直感的に理解できる形で示すことが重要になる。
これは、データドリブン経営を現場に根付かせるうえでも重要な視点だ。作田氏は「イメージできないデータは、経営には響きにくい」と話す。まずは経営が直感的に理解できるデータを整理し、その価値を体感してもらう。その先に、より複雑で高度な分析の活用が広がっていく。
#Section06
売上予測からROI、既存店分析、マーケティングへ
今後のSENSY GeoScopeについて、作田氏は売上予測の先にある意思決定支援への進化を期待する。たとえば、限界家賃やROIを含めた投資判断、出店後の実績検証、乖離が生じた場合の打ち手の提案など。
新店の部門別・クラス別売上予測から、最適な店舗人員構成を考えることもできる。発注、販売促進、マーケティング、SV業務にまでデータを横串でつなげれば、店舗開発で得た知見は全社の運営改善にも活用できる。
高橋氏も、既存店分析への展開に期待を寄せる。標準化はベルクの強みである一方、すべてを標準化すればよいわけではない。地域の客層や競合環境によって、強化すべきカテゴリーや売場は異なる。どこを標準化し、どこを変えるべきか。その判断にAIがヒントを与える。
❞ この店はもっと売れるはずだ、あるいはこのカテゴリーを頑張ると競合に対して優位に立てる、そうした切り口は人だけではなかなか出しにくい。AIはアプローチのヒントになります。
— 高橋氏

#Section07
出店の失敗が許されない時代に、より強い根拠を
作田氏は、店舗開発に携わる人へのメッセージとして「感覚は大事だが、それにしがみつくと行き詰まる可能性がある」と語る。定量的なものを素直に受け入れ、出てきた答えに対して「なぜか」を考える。その姿勢が、失敗を減らすことにつながる。
その背景には、出店投資の急激な増大がある。作田氏によれば、建築費だけでも入社した9年前と比べて倍以上、土地代も上がり、トータルの投資額は2〜3倍に膨らんでいる。
❞ 出店のインパクトはとてつもなく大きい。だからこそ、まずいと思ったときに引き返す材料にもなるし、逆に「これはいける」と判断する根拠にもなる。より根拠が大切な時代になっています。
— 作田氏
年間数店舗を出店する企業にとって、判断の精度は経営に直結する。勘や経験を否定するのではなく、それを定量的な根拠で補強し、判断の質を高める。SENSY GeoScopeの役割は、まさにそこにある。
#Section08
AIプロジェクトを定着させる鍵は、「現場がつくる」こと
AIやDXの取り組みを現場に定着させるうえで、高橋氏が大切にしていることがある。大きな方針や新しい技術の導入は、誰かが推進しなければ進まない。しかし、実際にどう活用し、どう運用するかは、できるだけ現場のスタッフを中心に組み立てるべきだという考えだ。
❞ 我々(デジタル推進室)のような立場の人間が運用フェーズで発言すると、どうしても現場が引っ張られてしまいます。だから、一定のところから先は、現場メンバーとSENSYさんで直接あるべきプロセスを考えてもらうようにしています。
— 高橋氏
高橋氏は、AI活用を進める企業へのアドバイスとして「チャレンジ」と「楽しむこと」を挙げる。どのようなゴールを思い描き、どこまで信じて進めるか。失敗することばかり考えれば、取り組みはそちらに引っ張られてしまう。未来を想像して楽しいと思えるものだからこそ、前向きな発想が生まれる。
ベルクでは、現在の経営トップが新しいことに前向きであり、社内にチャレンジを後押しする空気があることが、AI活用を進める土台になっている。高橋氏は、若手をディスカッションに参加させるなど、ポジティブな方向に全体を巻き込む工夫も続けている。
#Section09
経験を置き換えるのではなく、判断を進化させるAIへ
ベルクとSENSYによるSENSY GeoScope共同開発は、AIが店舗開発担当者の経験を置き換える取り組みではない。むしろ、経験ある担当者の違和感や現場知を起点に、AIを磨き、経営判断に使える形へと進化させる取り組みである。
需要予測から始まったAI活用は、店舗開発、既存店分析、自動発注、マーケティングへと広がりつつある。店舗開発という大きな投資判断に、より客観的で再現性ある根拠を加えること。その積み重ねが、ベルクの掲げる「デジタル活用ナンバーワンの小売業」への道を形づくっていく。
